誘導電動機の始動方法
三相誘導電動機の始動方法についてまとめてみよう.誘導電動機は同期電動機と違い,始動時においてもある程度大きなトルクが発生しているので,特別な始動方式は適用する必要がないという疑問もあるかもしれないが,そもそも誘導電動機の始動方式はトルクを確保するための機構ではなく,始動電流という大電流をなるべく抑えるための機構なのである.ここでは各始動方法の原理のイメージが浮かぶ程度に,簡潔な説明をしていく.なお,単相誘導機の始動方法は省略する.
\(Y-\Delta\)(スター・デルタ)始動法
これは回転磁束を作る固定子コイルの結線を切り替える始動方式である.次の図1を見ていただきたい.
図1.スターデルタ始動法
この図1は,固定子コイルが始動時にスター結線,始動後の通常運転時にはデルタ結線で運転されることを示している.始動時には通常運転時の5~7倍程度の始動電流が流れてしまうので,それを抑えるべく始動時はスター結線とし,固定子コイルにかかる電圧を\(\frac{1}{\sqrt{3}}\)にし,電動機に流れる電流を\(\frac{1}{3}\)にしているのである.このとき始動トルクも全電圧始動時の始動トルクの\(\frac{1}{3}\)になってしまうので,始動時から重負荷がかかるような用途には不向きである.また,スター結線からデルタ結線に切り替える瞬間に短時間ながら突入電流が流れてしまう.
リアクトル始動法
つづいて,リアクトル始動法について次の図2に示す.
図2.リアクトル始動法
リアクトル始動法とは,始動電流を抑えるために始動時に直列リアクトルを電源と電動機との間に挿入する方式のことである.\(Y-\Delta\)始動法のような突入電流はなく,また始動トルクも確保できるが,反面始動電流の低減効果も比較的薄い.
コンドルファ始動法
次にコンドルファ始動法について図3に示す.
図3.コンドルファ始動法
これは単変圧器(オートトランス)を用いた始動方式である.一番最初の起動時は単変圧器によって電圧を低減して誘導電動機に与える(左図).続いて加速時には単変圧器をリアクトルとして用い,リアクトル始動方式のようにリアクタンスによる限流を行い始動電流を抑える(真ん中の図).最後に通常動作に至る際にリアクトルもバイパスし,直接電源と電動機を接続する全電圧運転に至る(右図).これは単変圧器の変圧比を選ぶことで\(Y-\Delta\)始動法よりも柔軟に始動電流を何分の1にするか調節できるが,始動トルクと始動電流のトレードオフは依然として存在する.
インバータ始動法
最後にインバータ始動法について次の図4に示そう.
図4.インバータ始動法
この方式は実質的に万能である.つまりインバータ技術を使うことで,一定周波数の交流電源から,可変周波数・可変電圧の交流を作り出し誘導電動機に与えることができるので,始動トルクも確保しながら始動電流を極力抑えることもできる.始動トルクと始動電流のトレードオフを解消している手法に二次抵抗始動方式などもあるが,インバータ始動法と比べ抵抗における損失もあり,何よりかご形誘導電動機ではなく巻線形誘導電動機を使う必要がある.インバータの高調波発生などの問題もあるものの,インバータ+かご形の構成はほぼ万能と言ってよい.
この項の内容に関する,より詳細で完全な解説は,
【徹底解説 電動機・発電機の理論】の§5-4にて展開されています.是非ご参照を!!
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