直流電動機のトルク特性曲線と速度特性曲線

 

 直流機のトルクと起電力のまとめにおいて,並列回路数\(a\)や総導体数\(Z\),極数\(p\)のときの直流機の起電力\(E\)とトルク\(T\)が,下記のように表されることを紹介した.

$$E=\frac{pZ}{2\pi a}\omega\Phi = kn\Phi \tag{1}$$ $$T=\frac{pZ}{2\pi a}I_a\Phi =k_2I_a\Phi \tag{2}$$

 ただし,\(k\)と\(k_2\)は以下の通り.

$$k=\frac{pZ}{a} \tag{3}$$ $$k_2=\frac{pZ}{2\pi a} \tag{4}$$

 また,\(\Phi\)は1極当たりの磁束,\(\omega\)は角速度[\(rad/s\)],\(n\)は回転速度[\(s^{-1}\)],\(I_a\)は電機子電流の大きさである.単位が省略されているものは,すべてSI単位系に準拠しているものとする.これからこの式(1)と式(2)の結果を用いて,速度特性曲線トルク特性曲線を描いていくわけだが,その前にこの2つの曲線がそもそも何なのか,下記の図1の例を用いて簡単に紹介しておこう.

図1.励磁方式毎の速度特性曲線(左)とトルク特性曲線(右)

 

 図1は,界磁巻線の接続方法4タイプ(分巻・直巻・和動複巻・差動複巻)について,速度特性曲線(左)とトルク特性曲線(右)の概形を示したものである.励磁方式によって,大きく概形が異なることが見て取れるだろう. 速度特性曲線の縦軸は回転速度,トルク特性曲線の縦軸はトルクとなっており,どちらの横軸も負荷電流(電機子電流)である.

 「電流が決まると回転速度やトルクが一意的に決まる??」と疑問に思われるかもしれないが,これらのカーブは「端子を一定電圧の理想電圧源に接続された場合」という前提の上でプロットされたものなので,電流が決まればトルクだけでなく回転速度も決定されるのである.繰り返すと,この2つの特性曲線をプロットするときの状況は,下記のモデルで言うところの左端の端子に理想電圧源をつなげ,端子電圧\(V\)を強制的に一定にした状況に当たる.

図2.直流電動機の端子電圧と逆起電力の関係

速度特性曲線のプロット

 

 速度特性曲線ということは,回転速度\(n\)を計算してやればいいことはすぐにわかる.\(n\)が入った関係式は式(1)だ.この式(1)をよく見ると,起電力\(E\)がわかれば回転速度\(n\)が特定できることに気付くだろう(磁束\(\Phi\)は既知とする).

 ということで,まずは図2を用いて起電力\(E\)について解いてあげると以下のようなる.

$$E=V-I_ar_a-e_a-e_b\tag{5}$$

 ここで,ブラシ接触点の電圧降下\(e_a\)や電機子反作用による電圧降下\(e_b\)は無視をすると,

$$E=V-I_ar_a \tag{6}$$

 これを式(1)に代入すれば,

$$V-I_ar_a=kn\phi \tag{7}$$

 この式を回転速度\(n\)について解いてあげて,

$$n=\frac{V-I_ar_a}{k\Phi} \tag{8}$$

 この式で,速度特性曲線がプロットできるようになります.端子電圧\(V\)は理想電圧源により一定になっているので,1極当たりの磁束\(\Phi\)が一定ならば,回転速度\(n\)は電機子電流\(I_a\)の一次関数になるとわかるだろう.

図3.式(8)による速度特性曲線(1極当たりの磁束\(\Phi\)一定の場合)

 

 ここで,さらりと「1極当たりの磁束\(\Phi\)が一定」としたが,これは常に成り立つ想定ではない.例えば永久磁石により界磁されている直流機ではよい近似で成り立つが,界磁を電磁石(界磁コイル)で達成している場合は,その界磁コイルの接続方法次第では1極当たりの磁束\(\Phi\)が電機子電流\(I_a\)によって大きく変化するケースもある.コイルによる界磁方法には大きく直巻・分巻・和動複巻・差動複巻・他励式などがあるが,そのうち今回のように「1極当たりの磁束\(\Phi\)が電機子電流\(I_a\)と無関係」という想定を満たすのは,分巻と他励式である.つまり,上記の図3に示した速度特性曲線は分巻ないしは他励式のものであると言える.逆に図3のような速度特性を分巻特性と呼ぶこともある.なのでむしろ「永久磁石形が分巻特性を持つ」と言うこともできるだろう.

 それでは,その他の励磁方式(直巻・複巻など)のときの速度特性曲線はどうなるだろうか.式(8)は励磁方式次第で,下記の式(9)のような変更を受ける.

$$n=\frac{V-I_a(r_a+r_i)}{k\Phi(I_a)} \tag{9}$$

 この式(9)においては,1極当たりの磁束\(\Phi\)は電機子電流\(I_a\)に依存するので明示的に\(\Phi (I_a)\)とし,また電機子コイルと界磁コイルの接続方法が変わるので,その接続方法次第では界磁コイルの抵抗\(r_i\)も電圧降下に寄与することを示している.ただ,なんと言っても\(\Phi (I_a)\)の関数形が特性曲線の形を決定づけている主要な要素となっていることは確かだろう.

 計算は著書に記しているが,結果としては序盤で示した図1の左側のような曲線が導かれるのである.次はトルク特性曲線について考えてみよう.

 

トルク特性曲線のプロット

 

 これは一瞬である.トルク特性曲線をプロットするためには,トルクを求めればいいのだが,式(2)がトルクの答えそのものになっている.つまり,純粋に式(2)をプロットしてやればよいのである.

図4.式(2)によるトルク特性曲線(1極当たりの磁束\(\Phi\)一定の場合)

 

 単なる直線になった.これは1極当たりの磁束\(\Phi\)が一定の場合で,永久磁石形や分巻ないしは他励式の場合のトルク特性曲線に当たる.速度特性曲線のときと同様,その他の界磁方法(直巻・複巻など)のときのトルク特性曲線は,1極当たりの磁束\(\Phi\)の電機子電流\(I_a\)に対する依存性を考慮し,次の式(10)をプロットしてやればよいことになる.

$$T=k_2I_a\Phi(I_a) \tag{10}$$

 この\(\Phi (I_a)\)の具体的な関数形がわかれば,あらゆる界磁方式についてのトルク特性曲線もプロットできるようになるだろう.詳しい解説は同様に著書に記しているが,結果については序盤で示した図1の右側の通りとなる.\(\Phi (I_a)\)の関数形が具体的にどのようになるのか,次の記事である直流機の励磁方式なども読みつつ自分なりに考えてみるのも,物理的理解を鍛える意味でいい訓練になることだろう.

 

 

 

この項の内容に関する,より詳細で完全な解説は,【徹底解説 電動機・発電機の理論】のP.100~P.109にて展開されています.
是非ご参照を!!

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