誘導機の等価回路の物理的考察2(励磁電流)

 

 励磁電流の等価回路も忘れてはならないのでここで説明しておこう.

 次の図1は静止している誘導機の等価回路(つまり変圧器の等価回路)であり,四角い点線で囲われたインダクタと抵抗の部分が励磁電流の等価回路部分である.

図1.励磁電流の等価モデル

 

 これから,励磁電流とは物理的に何なのか,そしてそれはどのように求まるのか,を説明していく.次の図2は励磁電流が何たるかを理解するのに恰好の題材であろう.

図2.励磁電流の発生イメージ

 

 この図2は,回転子からかご形導体を抜き去って,鉄心だけにした状況を表している.このように回転子の導体を抜き去ってもしつこく流れる電流が励磁電流である.そもそも誘導機に流れる電流の内訳としては,「かご形導体中の誘導電流により誘起される電流成分」と「励磁電流による成分」の2つに分けることができる訳だが,この実験では無理やり回転子の導体を抜くことで前者の成分を0にしているというのである.励磁電流というのは誘導機の端子電圧で定まる磁束を起こすのに必要な電流成分のことであり,これはかご形導体の有無に左右されない成分なのである.(もちろん回転子の鉄心は残さねばならない.)

 では早速次の図3を用いて励磁電流を\(I_{f}\)求めていこう.

図3.励磁電流の計算

 

 この図3は,固定子コイルだけを考え(回転子側の導体は取り除き),磁束\(\Phi\)を発生させるのに必要な励磁電流\(I_{f}\)を求めるための磁気回路を表している.この図3は\(N\)回巻のコイルなので励磁電流が\(I_{f}\)ならば起磁力は\(NI_{f}\)である.そしてこの磁気回路の磁気抵抗を\(\Re\)とすると,生じる磁束\(\Phi\)は次のように表される.

$$\Phi = \frac{NI_{f}}{\Re } \tag{1}$$

 ここで磁気抵抗\(\Re\)というのは,その磁気回路に単位磁束を流すために必要な起磁力のことである.

 また,外から与えている端子電圧\(V\)と磁束\(\Phi\)との間には次のような関係がある.

$$V = j\omega{N}\Phi \tag{2}$$

 これは以下のファラデーの法則のフェザー表示であることは言うまでもない.(逆起電力なので符号は+としている)

$$V = \frac{d\Phi}{dt} $$

 式(1)を式(2)に代入すれば,次のように端子電圧\(V\)と励磁電流\(I_{f}\)との関係が導ける.

$$V = \frac{j\omega{N^{2}}}{\Re}I_{f} \tag{3}$$

 図3のインピーダンスであるこの式(3)を眺めると,純虚数になっているので図3がインダクタでモデル化できることがすぐにわかる.励磁電流を小さくしようと思ったら,このインピーダンスを大きくしてやればいいので,磁気抵抗\(\Re\)を最小化すればよい.そのためには,図2にも示したような鉄心間の隙間(ギャップ)をなるべく小さくとってやるのがもっとも効果が大きい.

 しかし上記の計算には入っていない大事な効果がある,それは”鉄損”である.これを含めた等価回路にしなければならない.そこで次の図4のように,等価回路に抵抗を導入することにより鉄損を表現する.

図4.励磁電流の等価回路導出

 

 鉄損というのは電機子電流によらず,鉄心に必要な磁束を励起するのに生じる損失のことで,大きく「渦電流損」と「ヒステリシス損」に分けられる.渦電流損は,鉄心の中で生じた渦電流により,その渦電流の2乗に比例したジュール熱が鉄心に発生することによる損失であり,ヒステリシス損は,鉄心などの強磁性の「磁束の向きが変わるたびに磁化曲線のループ面積に比例した損失が発生する」という性質によるものである.これらはいずれも有効電力の消費という形で現れるので,図4に示すようにこれら有効電力消費を簡易的に並列抵抗で置き換えるというモデル化が成立するのである.

 ただし,ヒステリシス損の分については周波数に比例するので,周波数が一定でないケースでは図4のような単純な抵抗での置き換えはできないことに注意しよう.(とは言っても,図4のようなモデル化で鉄損を表しても実用上申し分ない.)

 次の記事では,誘導機の等価回路の物理的考察を締めくくるべく,回転時の誘導機のモデル化について考察しよう.

 

 

 

 

この項の内容に関する,より詳細で完全な解説は,

【徹底解説 電動機・発電機の理論】のP.248~268にて展開されています.是非ご参照を!!

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