誘導電動機の回転原理

 

 まず誘導電動機がどのようなものであったか,図1に示そう.

図1.かご形誘導電動機の模式図

 

 三相交流が3つのコイルに接続された形は同期機においても見た形だろう.勿論実際には3つのコイルが図のような形で配置されている形よりも,むしろ三相交流が流れる各々の導体が分布的に設置される分布巻と呼ばれる構造の方が一般的である.しかし原理を理解する上では上記のような3つのコイルが\(120^\circ\)ずれて配置される形を考えてもらって構わない.

 この三相交流による3つのコイルにより,かご形導体が設置された電動機中心付近では回転磁界が発生している.この回転磁界にかご形導体がつられて回転を始めることこそが,誘導電動機の回転原理となる.

図2.かご形導体の構造

 

 ここでかご形誘導電動機のかご形導体がどのような構造なのか図2に示した.かご形導体は同図の右側に示したような円筒形の骨組みが導体となっており,回転磁界に設置されるとそこに誘導電流が流れ,トルクが発生するのである.

 これから何故,このかご形導体がこの回転磁界に引きずられてトルクをうけるようになるのか考えていく.まずは状況を考えやすくするために,下の図3のように回転磁束を,かご形導体の周りを回る磁石として置き換えて考えていこう.

図3.回転磁界中のかご形導体

 

 この図3の描写は”同期電動機の回転原理”でも触れたイメージである.ということで,同期電動機と誘導電動機の回転原理の違いを以下の図4で比較してみる.

図4.同期電動機と誘導電動機の違い

 

 この図4を見ると,回転磁束につられて回転子がトルクを受けるという意味では両者は共通であるが,回転子が磁石(永久磁石でも電磁石でも)なのが同期電動機で,また回転子が単なる導体(またはコイル)で誘導電流により初めて磁石となるものが誘導電動機である,とそれぞれ解説できる.

 ここでこの図4の右側の構造のもので,なぜA軸を回すとB軸のかご形導体がつられるのか,その原理のイメージは,次の図5の状況を考えてみるとクリアになるだろう.

図5.はしご形導体上を走る磁石

 

 結論から言うと,この図5のはしご形導体は磁石の動きにつられて右側に力を受ける.まさに磁場の変化の方向に引きずられるということが起きるのである.

 次の図6は,その引きずられる原動力となるはしご形導体内の誘導電流の様子を表している.

図6.はしご形導体に流れる誘導電流

 

 この図6のような誘導電流により,実質的にはしご形導体が次の図7のような電磁石になるのである

図7.誘導電流により生じる電磁力

 

 この図7によれば,棒磁石の移動方向の前方に発生した誘導電流は棒磁石と斥力を,またその後方に発生した誘導電流は棒磁石と引力を及ぼし合うので,はしご導体全体では,棒磁石の移動方向に力を受けることになる.これは誘導電動機におけるかご形導体に置き換えても全く同じ話が成り立つだろう.つまり図4の右側が回転磁束に合わせてかご形導体が力を受ける原理が説明された.

 この図7の誘導電流の向きは,かご形導体のインピーダンスが抵抗的であった場合である.これがもし誘導的なインピーダンスだったならば,図7のようにはならない(図9にて後述)ので,図8のようにかご形導体のインピーダンスを把握することは重要である.

図8.すべりによるかご形導体のインピーダンス変化

 

 この図8は,かご形導体のインピーダンスがすべりによりどのような変化をするのか表したものである.すべりが小さいうちは,かご形導体に流れる誘導電流の周波数は低いので導体のインピーダンスはほぼ抵抗的と考えられるが,すべりが大きくなるに従って,誘導電流の周波数は高くなっていき,それに応じてインピーダンスのインダクタンス成分の効果が抵抗成分に比較して大きくなっていき,最終的には抵抗成分よりも誘導成分が主要なインピーダンス成分になっていくのである.

 このようにかご形導体のインピーダンスが誘導的になった場合の誘導電流の分布と,それによる磁気力の様子を図9に示す.

図9.かご形導体のインピーダンスが誘導的な場合

 

 この図9によると,かご形導体のインピーダンスが誘導的である場合,もはや棒磁石の移動の方向にかご形導体が引きずられることはない(定量的な理論は後述).つまり,かご形導体のインピーダンスのうちの抵抗成分が,トルク発生には不可欠であると言える.こういった理由から,すべりが大きいときに意図的に抵抗を二次側(回転子巻線側)に挿入し始動トルクを確保するといった工夫もなされるのである.また,後述するがすべりが大きいときに等価抵抗が大きくなるようなかご形導体を用いた,”特殊かご形誘導電動機”も始動特性改善のために使われる場合がある.

 

 

 

 

この項の内容に関する,より詳細で完全な解説は,

【徹底解説 電動機・発電機の理論】の§5-1にて展開されています.是非ご参照を!!

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