抵抗加熱について

 

 抵抗加熱というのは,抵抗に電流を流し,そのジュール熱で物体を加熱する方法のことを言う.加熱したい物体に直接電流を流してしまう方式を直接抵抗加熱と呼び,抵抗加熱で発熱させた発熱体から被熱体に熱を伝えて加熱する方式を間接抵抗加熱と呼ぶ.原理は同様なので,今回は間接抵抗加熱に話を絞って説明していく.

 抵抗加熱の原理を次の図1に示す.

図1.抵抗加熱の原理

 

 抵抗加熱というのはその名の通り,抵抗に電流を流しジュール熱を発生させる加熱方式のことで,抵抗で消費された電力はすべてジュール熱に変換されるので加熱効率がよい.また,電流さえ流せばよいので直接交流電源を使用でき,複雑な電力変換装置などは一切不要であるという利点を持つ.

 ちなみに電気的エネルギーが熱エネルギーに変換される様子を図1の右側に示した.自由電子は電気的エネルギーにより加速されるが,抵抗体の原子に衝突し格子振動のエネルギー(つまり熱振動)に変換される.抵抗体の内部を走る自由電子は,この衝突を大変頻繁に繰り返し,電気エネルギーが100%熱エネルギーに変換されるのである.例えば室温の銅では数百原子分の距離を走ると電子は平均1回散乱される.一方でニクロム線などにおいてはNi原子とCr原子が若干不規則に並ぶことで数原子以内の距離で電子は平均1回散乱され,抵抗値が高くなっている(銅の約70倍)ので発熱体として有効に機能するのである.

 実際に発熱する熱量\(Q [J]\)は,発熱時間を\(t [s]\),消費電力を\(P [W]\)として

$$ Q = Pt \tag{1} $$

と表される.純粋に消費電力量\([J]\)と発熱量\([J]\)がイコールになっている.消費電力\(P [W]\)は

$$ P = \frac{V^{2}}{R} \tag{2} $$

となるので,抵抗値\(R\)が一定ならば,電圧の実効値\(V\)を調整することで発熱の勢いを調節できる.ただ,実際は発熱の勢いを増すと発熱体の温度が増し抵抗値\(R\)が変化することに注意しよう.

 それでは,この発熱体にはどのような種類があるのだろうか.次の図2は,商用で主に用いられる発熱体が金属発熱体セラミック発熱体に大別できることを示している.

 

図2.金属発熱体とセラミック発熱体

 

 必ずしもこの2つのどちらかに分類できるわけではないが,広く普及しているのは大抵このどちらかである.一般的に言うと,金属発熱体は抵抗率がセラミック系より低いので,線を細くして長さを稼ぐような形状となる.一方でセラミック系は抵抗率が高いので太い棒状のものが用いられる.また,金属発熱体の代表格であるニクロム線や鉄クロム線に比べ,セラミック発熱体は耐熱温度が高い.

 発熱体の各素材について電気抵抗率や耐熱温度を比較した図を次に示す.

図3.発熱体の種類と特性

 

 金属系の発熱体は抵抗率が\(10^{-6} [\Omega{m}]\)前後のものが多い.金属の抵抗というのは,不純物を入れたり不規則な合金構造を作ったりしてもこの辺りの抵抗率を超えることはなかなかできないと言える.一方で炭化ケイ素(SiC)に代表されるセラミック発熱体は抵抗率が\(10^{-1} [\Omega{m}]\)に及ぶ.これはSiCが半導体であり自由電子がわずかしか存在しないためこのような高い抵抗率が達成できるのである.炭素についても自由電子はわずかしか存在しないのでやはり金属系の抵抗上限を上回る抵抗値となっている.

 また,大気中の許容温度については,ニクロムが~1200℃,鉄クロムが~1400℃,二ケイ化モリブデンが金属系では高く~1800℃,SiCは~1700℃,炭素は~2300℃(真空中,大気中だと燃える,非酸化雰囲気中の大気圧で2600℃)となっている.

 ここで,\(\Omega{m}\)という単位が頻発しているので,一度そのイメージをおさらいしておこう.

図4.抵抗率\(\Omega{m}\)の単位イメージ

 

 \(5 [\Omega{m}]\)というと,一辺\(1m\)の立方体のある面からその裏面までの抵抗値が\(5 [\Omega]\)ということである.図4においては,\(1.1\times10^{-6} [\Omega{m}]\)のニクロムを例に挙げている.一辺\(1m\)の立方体ならば\(1.1\times10^{-6} [\Omega]\)の抵抗値であり,仮に一辺\(2m\)の立方体を用意したら,抵抗値は\(\frac{1}{2}\)になるので\(0.55\times10^{-6} [\Omega]\)の抵抗値となる.抵抗値と一辺の長さの積は常に\(1.1\times10^{-6}\)で一定なので,単位は\(\Omega{m}\)という風に抵抗値*長さの形になっているのである.

 さて,図3に示した5種類の発熱体は,どのような形状で使われているのか見てみよう.

図5.発熱体の主な形状

 

 この図5には,大きく3つの形状を示した.一般的な合金系発熱体(ニクロム,鉄クロムなど)は主に左側のコイル状で加工される.二珪化モリブデン(MoSi2)などは金属系の抵抗率なので同じく細長くしないといけないが,熱衝撃に弱く破断しやすい素材なので同図真ん中のようにU字やW字形に加工される.そしてセラミック発熱体や炭素棒などは抵抗率が高いので比較的太い棒状にして使用される.

 ここまでで抵抗加熱の原理と,発熱体の種類や形状などについて理解できたことと思う.次はそれらを使って,どのように温度をコントロールしているのかという,温度制御方法について説明していく.

図6.抵抗加熱の温度制御

 

 温度制御するには,被熱体の温度を何らかの方法で測定し,その結果に応じた電圧(電流)制御をする必要がある.図6には抵抗加熱において用いられる代表的な2つの温度制御方法を挙げた.左側はもっとも単純で,サーモスタットを用いた方法で,右はもう少し高級でサイリスタによる電圧制御を行う方法である.粗い温度調節で良ければ左側で十分である.つまり目標温度を超えた時点でスイッチを切り,目標温度から一定以上低下したら再びスイッチを入れるというOn-Off制御である.ある程度精密な温度調節がしたければサイリスタの位相制御などにより発熱体に加える交流電圧の実効値を動的に調節してやる手法が用いられる.もちろんこれ以外にも多種多様な調整機構が考えられるが,主立ったところとしてはこの2タイプであろう.

 温度制御に関連して,最後に発熱体の抵抗値の温度特性について触れておこう.図7をご覧いただきたい.

図7.発熱体の抵抗値vs温度

 

 図7は金属発熱体とセラミック発熱体の抵抗vs温度の特徴を示している.金属は温度が高まると抵抗が単調増加する.それは温度が高まることで原子の振動が大きくなり,自由電子の流れを邪魔するようになるからである.一方で炭化ケイ素などの半導体においては温度を高めると励起される自由電子の数が増えるので,抵抗値は一旦下がる.しかし600℃付近からは原子の振動による自由電子の散乱の影響が勝り,抵抗値は増加に転じる.

 使用温度においては,温度上昇に対して抵抗値は上がる特性が好ましい.さもなくば,定電圧を加えると熱暴走して融け落ちてしまうだろう.温度制御において,この温度特性をきっちり理解することは大切である.

 

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