共振形インバータ(実践編)
本記事においては,共振形インバータが実際にはどのような場面で使われるのかについて,簡単に説明していきたい.共振形インバータを用いる大まかな理由を3つ挙げるならば,「高周波の交流が必要な場合」,「高速スイッチングのロスを抑えたい場合」,「高速スイッチングの電磁放射などのノイズを低減したい場合」となるだろう.もちろんこれ以外のモチベーションで共振形インバータを使ってもよいのだが,大抵の場合ではこれら3つのいずれか(もしくは複数個)の理由から共振形インバータが使われる.
まず実際に「高周波の交流が必要な場合」にはどのようなケースがあるのか,よくお目にかかる2つの代表例を挙げていこう.一つ目は次の図1に示すような誘導加熱における高周波発生の例を紹介する.
図1.誘導加熱用共振形インバータの例(模式図)
誘導加熱は,被加熱体が電気を流す場合に適用される加熱方式であり,その被加熱体(電気伝導体)に交番磁界を与え,渦電流を流すことでそのジュール熱により内部から加熱するという方式である.交番磁界を生成するために,コイルに交流を流す必要がある.コイルはインダクタンスを持っているので,それと並列にキャパシタを接続することでLCタンクの共振回路を構成できる.これを利用して,コイルに対して効率的に交流電圧を供給することができるのである.もちろん誘導加熱ではなく誘電加熱の場合も高周波が必要なので,同様にして共振回路を利用することができる.しかしその場合は誘電加熱の電極がキャパシタになっているので,逆にインダクタを並列に接続することになる.
次に「高周波の交流が必要な場合」の二つ目の例として,図2に示すような放電管の駆動回路を紹介しよう.
図2.放電管駆動用共振形インバータの例(模式図)
この例だと,LCC共振回路が用いられているが,LC型でも,LLC型でもよい.要するに,放電管の抵抗特性も加味して安定した共振回路であればよい.
続いて「高速スイッチングのロスを抑えたい場合」の例として,図3に示すようなDC-DCコンバータへの応用を説明する.
図3.共振形インバータをDC-DCコンバータに使った場合
DC-DCコンバータには,「DC-DCコンバータの概要」でも説明したように大きく3つのアプローチが存在したが,今回の図3はそのうちの3番目,「スイッチングレギュレータ」に当たる.つまり,直流電圧を変圧させるために,まず直流を交流に変換し,通常の変圧器で変圧ののち,またそれを整流して直流に戻すという手法である.このとき,直流を単純にスイッチで周期的にその極性を切り替えて矩形波の交流を作り,これをそのまま変圧器に突っ込むことはできるのだが,この図3の例のように共振形インバータを採用することにより同図左側のスイッチング部におけるスイッチングロスを低減できるのである.これはソフトスイッチングという技術で,次の記事において少し掘り下げた説明をする.また,本記事においても図5以降において少しだけ概要に触れている.
ソフトスイッチングの話に入る前に,上記で紹介してきた図1~図3の3つの例において,ひたすら理想スイッチで表現してきた部分「スイッチング部」が,実際どのような回路になっているのか,その例を図4で補足しておこう.
図4.スイッチング部の実施例(IGBTの場合)
図4ではIGBTを用いているが,MOSFETでもバイポーラでもGTOでも,半導体スイッチであれば基本的に何であっても構成可能である.同図左側のハーフブリッジは電圧が\(E\)か\(0\)かの二択であり,同図右側のフルブリッジについては電圧が\(E\)と\(-E\)の二択となる.
それでは,ソフトスイッチングの話に入ろう.図5は降圧チョッパ回路の模式図を示している.
図5.ソフトスイッチングを適用する部分(降圧チョッパ回路の場合)
ソフトスイッチングは,LC共振を用いることで半導体スイッチのスイッチングにおける損失を軽減するための手法なのだが,これがどのような技術であるかについては後述するとして,まずソフトスイッチングがどのような回路で実現されているのか,具体例から示していきたい.早速図5で示した降圧チョッパの中の点線で囲んだスイッチ部分にソフトスイッチングの技術を適用したらどうなるのか,図6と図7で見てみることにしよう.
図6.ZCS(Zero Current Switching)適用の例
図6はZCS(Zero Current Switching)の一例である.このスイッチング回路中のLC回路の共振を利用することにより,電流が\(0\)になる瞬間を作り出し,そのタイミングでスイッチングすることでスイッチング損失を軽減しようというものである.
図7.ZVS(Zero Voltage Switching)適用の例
図7はZVS(Zero Voltage Switching)の一例である.図6同様,この回路内のLC共振を用いることにより,スイッチの電位差が\(0\)になる瞬間を作り出し,その瞬間にスイッチングすることによりスイッチング損失を軽減しようという技術になっている.この場合は,降圧チョッパ回路に元々あったインダクタとの共振を利用している.
このように,共振形インバータだけでなく,スイッチングのロスを軽減したり発生ノイズを抑制する技術(ソフトスイッチング)にも共振は使われる.次の記事において,このソフトスイッチングの概要をもう少し掘り下げて説明していく.
News!!
☆2015年10月5日より、EnergyChordの新刊【[改訂版]徹底解説 電動機・発電機の理論】の発売を開始しました!
☆【入門演習 パワーエレクトロニクス】も好評発売中です!試読はこちらから。
Copyright © 2017 EnergyChord. All rights reserved.