ソフトスイッチング(導入編)

 

 本記事では,LC共振を用いてスイッチングロスを低減するテクニックである,ソフトスイッチングについて解説しよう.共振形インバータを用いる主要な動機としては,前回の記事でも説明した通り,「高周波の交流生成」「高速スイッチングのロス低減」「高速スイッチングによる放射ノイズ低減」の3つを挙げることができたが,ソフトスイッチングは後半2つの目的を達成するための手法である.共振形インバータを使用する時点で,ソフトスイッチングの採用は前提となっていると言ってもよい.パワーエレクトロニクスのさらなる発展に必要な条件として,「より高速できめ細やかなスイッチングを高効率で達成する」ことが求められていることを考えれば,ソフトスイッチングが如何に重要なトピックであるかが分かるだろう.ソフトスイッチングはLC共振に慣れていないと理解しにくいので,次の記事ではLC共振のイメージも一緒に導入しながら時間軸上の結果もふんだんに絡めて具体的に説明する.

 それでは早速ソフトスイッチングの説明に入ろう.まずは,ソフトスイッチングがどのような形で適用されているのか,その代表例を図1に示す.

 

 

図1.ソフトスイッチング適用例

 

 

ソフトスイッチングは,LC共振を用いてスイッチングにおける電圧ないしは電流を\(0\)にすることでスイッチングの損失を抑えるという技術なので,共振回路とセットで実現される.共振形インバータのように本体の共振を用いてソフトスイッチングをするもの(図1の左側,負荷共振形変換回路)もあれば,スイッチング素子の部分がスイッチングのときだけ共振するようにしたもの(図1の右側,準共振形変換回路)もある.その他にも共振リンク型などもあるが,その辺りの詳しい解説は書籍に譲る.これから説明していくのは図1の右側,つまり準共振変換回路におけるソフトスイッチング(共振スイッチ)である.つまり,チョッパ回路などのDC-DCコンバータに共振スイッチを適用してソフトスイッチングする場合について考えていく.DC-DCコンバータは直流を扱っているので,どうやってスイッチング素子周辺を共振させるのか不思議に思うかもしれない.という訳で,まずは図2において,共振スイッチの原理をお見せしよう.

 

 

図2.共振スイッチにおけるZCSとZVSの原理

 

 

簡単に言ってしまえば,ZCSは電流を振動させるための共振回路を組み,ZVSは電圧を振動させるための共振回路を組めばよい.つまりZCSは直列LC回路を用い,一方ZVSは並列LC回路を用いる.これにより,ZCSはターンオン時に電流\(0\)からスタートして電流が振動し,電流が再び\(0\)になる瞬間がやってくるのでその時にターンオフさせることができる.またZVSについても,ターンオフ時にスイッチング素子両端の電位差が\(0\)からスタートして電圧が振動し,再び端子間電圧が\(0\)になる瞬間がやってくるのでその時にターンオンさせることができるのだ.このグラフは図5に示しているので,その時に改めてそのイメージを説明したい.

 それでは図3,図4において,ZCSとZVSのスイッチ部の回路をお見せしていこう.まずはZCSからである.

 

 

図3.ZCSのスイッチ部回路図

 

 

図3は,ZCSの共振スイッチの回路図を示している.スイッチがオンすると,LとCが直列になることがわかるだろう.つまりスイッチがオンしている期間において電流が共振している回路となっている.このときスイッチ回路の右側端子はAC的には高インピーダンスでなければ正常に共振しないことに注意しよう.つまり,定電流源(大きなインダクタで,一定電流を流している場合)などがZCSが共振している期間における条件である.

 次にZVSのスイッチ部回路図を示そう.

 

 

図4.ZVSのスイッチ部回路図

 

 

図4は,ZVSの共振スイッチの回路図を示している.スイッチがオフすると,今度はLとCが並列になることがわかるだろう.つまりスイッチがオフしている期間において電圧が共振している回路となっている.このときスイッチ回路の両端子は共振周波数において十分低インピーダンスでなければ正常に共振しないことに注意しよう.つまり,両端がAC的な電圧源(直流電圧源や対地ダイオードがオンしている場合)などがZVSが共振している期間における条件である.

 最後にこれら図3や図4がどのように共振しているのか,その波形を図5でイメージ的に説明しておこう.

 

図5.ZCSの電流波形(左)とZVSの電圧波形(右)

 

 

まず図5の左側はZCSの共振スイッチにおける電流波形である.スイッチがオンしているときに電流が振動していて,オン期間の始まりと終わりにおいて電流が\(0\)になっていることがミソである.またこれは全波(full-wave)共振と呼ばれるケースである.全波・半波の詳細は次の記事で説明するが,簡単に言ってしまうと全波というのは「電流が正に振れた後\(0\)をクロスして負に振れてまた\(0\)に戻っている」ような,正と負の両方に振れる共振である.

 一方でZVSはどうだろうか.図5右側にその電圧(スイッチ両端の電位差)の波形を示している.スイッチがオフしているときに電圧が振動していて,オフ期間の始まりと終わりにおいて電流が\(0\)になっていることがミソである.このケースは半波(half-wave)共振の場合である.見た目からしても半分の波形になっている「半波」の共振であることは明らかである.ZVSでもZCSでも半波・全波両方考えられることは次の記事で理解できることだろう.

 

 ZCSとZVSの共振スイッチのイメージが湧いただろうか.チョッパ回路のようなDC-DC変換器においてもスイッチ部分だけ共振させてソフトスイッチングが可能であることがなんとなく納得できたのではないだろうか.次の記事では具体的に,降圧チョッパ回路を題材に,共振スイッチを適用してみて,電圧と電流のグラフがどうなるのか詳しく追ってみることにしよう.

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