サイリスタ制御リアクトル方式(TCR)

 

 

 サイリスタ制御リアクトル方式(Thyristor Controlled Reactor)とは,サイリスタのスイッチングによりインダクタの値を調整できる無効電力調整用リアクトルのことであり,その回路構成は下記の図1のように説明できる.

 

図1.サイリスタ制御リアクトル方式(TCR)の回路構成

 

 

 図1の左側では可変リアクトルを表しているが,それを達成するためには同図真ん中のように,スイッチをせわしなくパタパタ開閉させることで,リアクトルを導通させる時間による等価的なリアクタンスの調整を行えばよい.つまり完全にスイッチONならばリアクタンスがそのまま見え,完全にスイッチOFFならばリアクタンスがないのと等価である.そしてパタパタスイッチングしているときにはリアクタンスはその間のどこかとなる.実際のスイッチは同図右側のように互いに逆向きのサイリスタを並列に接続した構成をとる.

 なぜこのような構成になるのだろうか?そして,インダクタの電流をスイッチでOFFにするというのは本当に可能なのだろうか?これらの疑問を払しょくすべく,TCRに流れる電流波形がどうなっているのかを考えていくことにしよう.

 

図2.TCRにかかる電圧と流れる電流

 

 

 図2は,TCRに流れる電流波形を示している.この場合①のサイリスタは正の電流を流し,②のサイリスタは負の電流を流す.そしてそれぞれのサイリスタを点弧(ターンオン)するタイミングで電流を流し始め,電流量がピークに達した後電流が\(0\)になり,そこでサイリスタの逆阻止特性によりターンオフする.このようになる理由をもう少し詳しく,次の図3で説明しよう.

 

図3.TCRの電流波形とその理由

 

 

 図3の一番上のトリガは①のサイリスタを点弧するための信号,二番目のトリガは②のサイリスタを点弧するための信号である.点弧すると電圧がかかっている方向に電流が徐々に増加する.しかし交流であるから当然電圧の向きはいつしか反転し,増加していた電流は減少に転じる.これがタンコブのような電流波形になる理由である.そして電流が0になると今度逆向きの電流が流れようとするがサイリスタはそれを許さないのでスイッチオフに至るのである.もちろんインダクタの電流を無理やり遮断することは不可能だが,このように”自然と”電流が0になるポイントにおいてサイリスタがオフしてくれるのである.

 それではこの回路において,どのように無効電力を調整できるのだろうか?その答えが次の図4である.

 

図4.TCRの無効電力制御(無効電力消費を抑えた場合)

 

 

 この図4は,図3の点弧角を大きくした(点弧のタイミングを遅らせた)ものである.すると明らかに流れる電流が小さくなることが理解できるだろう.逆に点弧のタイミングを早めれば,流れる無効電流は大きくなる.このように点弧角により無効電力を連続的に調整しているのである.

 ところで,このTCRは高調波がかなり発生している.今までの図2~4の電流波形を見ても明らかなように,電流はサイン波とは到底言い難い.これは補償している無効電流に近い量の高調波電流が同時に発生していることを表している.そのため,一般的にはTCRに並行して5次高調波と7次高調波を抑制するフィルターを設ける.

 その他にも図5に示すような\(30deg\)だけずれたタイミングで動作しているTCR2つを並列して設置する12パルスTCRという構成も考えられる.

 

図5.通常のTCR(左)と12パルスTCR(右)

 

 

 図5に示す通り,一般的にTCRは変圧器を介して系統に接続される.そして12パルスTCRの場合,変圧器は\(Y\)-\(Y\)-\(\Delta\)結線を採用し,\(Y\)巻線と\(\Delta\)巻線の電圧が互いに\(30deg\)ずれていることを用いている.最後にTCRが三相交流に対してどのように接続されるのか,実際の結線の様子を次の図6で説明しよう.

 

図6.三相交流系統におけるTCR接続

 

 

 この図6では,実際のTCRはGNDに接続されることはなく,このように\(\Delta\)結線を構成しながら系統に接続される.もし\(Y\)結線を用いて,中性点を接地などしてしまったら,逆向きのサイリスタ同士の電流量の違いから中性点に直流成分の電流が流れ出し,零相電流が発生してしまう.また,サイリスタを両側からリアクトルで挟む理由としては,落雷などによるサージ電圧からサイリスタを保護するためである.このようにしてTCRは可変リアクトルを達成し,無効電力調整しているのである.

 

 

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