電圧形インバータと電流形インバータ
これからインバータの回路構成が,電圧形と電流形の大きく2つのタイプに分けられることを説明しよう.
図1.電圧形インバータ(左)と電流形インバータ(右)
図1左側は電圧形インバータと呼ばれ,点Aにおける直流電源の電圧をスイッチング素子によりそのまま出力に伝達する構成をとっており,一方同図右側は電流形インバータと呼ばれ,インダクタ\(L_{s}\)を介して供給される一定電流\(I_{L}\)をどちらの出力端子に流し込むか,スイッチング素子を用いて選択する構造となっている.モータの速度制御などでは電圧形インバータが,一部の大型インバータや多くの直流送電のインバータなどでは電流形インバータが,それぞれ使われている.これから電圧形・電流形のそれぞれについて,簡単な回路構成や動作イメージを説明していくことにしよう.
電圧形インバータ
まずは電圧形インバータについて説明する.電圧形インバータの回路構成を図2に示す.ここで,IGBTに並列に接続されているダイオード(還流ダイオード)の役割について知りたい方は,還流ダイオードの説明を参照いただきたい.
図2.電圧形インバータの基本構造
図2の点Aにはコンデンサ\(C_{p}\)が接続されているため,IGBTが頻繁にスイッチングしても点Aの電圧は大きく揺れず,点Aはほぼ理想的な電圧源とみなすことができる.ここで,同図中央の赤い丸で囲んだ三相交流には,スイッチングデバイスを介して電圧\(V_{DC}\)か\(0[V]\)のいずれかが与えられる.つまり,この赤い丸で囲んだ三相交流の各相の相電圧は図3に示すような矩形波となる.
図3.電圧形インバータの電圧出力例(PWM制御の場合)
インバータの出力が強制的に\(V_{DC}\)か\(0[V]\)のいずれかの電圧となることがポイントである.図2のコンデンサ\(C_{p}\)により点Aの電圧が\(V_{DC}\)で安定しているので,このインバータは十分低いインピーダンスで\(V_{DC}\)か\(0[V]\)のいずれかの電圧を出力する.このように十分低いインピーダンスで電圧を出力するインバータ(ここでは矩形波電圧を出力するインバータ)を電圧形インバータと呼ぶ.
ここで少々脱線するが,少しだけPWM制御の話をしたい.図3ではインバータから出力される矩形波電圧(赤で示した波形)のパルス幅が動的に変化していることに注目しよう.この矩形波電圧をインダクタを用いて平滑化したとき図3の青い点線で示した波形に近づくように,パルス幅を動的に変化させているのである.具体的には,平滑化した後の電圧を高めたければパルス幅を増加させればよく,パルス幅を減少させれば平滑化した後の電圧も下げることができる.実際,図3の矩形波電圧をインダクタにより平滑化すると,図4の青で示すような電圧波形が得られる.図3に示したターゲット波形(正弦波)に近い電圧波形である.このように,矩形波電圧のパルス幅を動的に変化させることで,平滑化した後の電圧波形をコントロールする技術をPWM(Pulse Width Modulation)制御と呼ぶ.PWM制御の詳細についてはインバータのPWM制御を参照いただきたい.
図4.負荷にかかる電圧
では話を元に戻そう.電圧形インバータとは何かという説明をしていた.電圧を出力するインバータを電圧形インバータと呼ぶのであった.これに対して,電流形インバータは電流を出力するインバータであることは容易に想像できるだろう.それでは電流形インバータはどのような回路構成となるのだろうか?
電流形インバータ
電流形インバータは,電圧形インバータと違い,電圧を出力するのではなく,電流を出力するインバータである.具体的には,図5に示す回路のように,直流電源とブリッジとの間にインダクタ\(L_{s}\)が挿入されており,これによりスイッチングデバイス(ここではIGBT)が頻繁にスイッチングしても電流\(I_{DC}\)はほとんど変化しないようになっている.インダクタの電流値は急には変化できないためである.
図5.電流形インバータの基本構造
図5が電流形インバータの基本構造を示している.図2と比較すれば,電圧形インバータとの構造上の違いがよくわかるだろう.これから,電流形インバータの出力電流(つまり図5の赤い丸で示した部分の電流)がどのようになるのか考えてみよう.インダクタ\(L_{s}\)を流れる電流\(I_{DC}\)は一定なので,図5の赤い丸で示した三相交流の各相の相電流は,\(I_{DC}\)か\(0\)か\(-I_{DC}\)の3択になる.なぜなら,出力のある一相に着目したとき,スイッチングにより電流\(I_{DC}\)が「注入される場合」と「引き去られる場合」と「流れない場合」の3パターンが考えられるからである.したがって,電流形インバータの出力電流は図6の赤い波形で示すような矩形波となる.
図6.電流形インバータの電流出力例(PWM制御の場合)
図5のインダクタ\(L_{s}\)によりインダクタ\(L_{s}\)を流れる電流\(I_{DC}\)が一定となるので,負荷によらず,インバータは強制的に\(I_{DC}\)を流そうとする.つまり,このインバータは負荷にかかわらず,力ずくで図6に示す矩形波電流を出力しようとする.このように十分高いインピーダンスで電流を出力するインバータ(ここでは矩形波電流を出力するインバータ)を電流形インバータと呼ぶのだ.
ここで,電流形インバータについても,先ほどの電圧形インバータと同様にPWM制御を適用できることを補足しておこう.図6に示すように,矩形波電流のパルス幅を動的に調整することによって,平滑化された後の電流を所望の波形に近づけることができるのだ.実際に,図5の負荷に供給される電流(青い丸で示した三相交流のうちのある一相の電流)は図7のようになる.
図7.負荷に供給される電流
このように電流形インバータについても,出力される矩形波電流のパルス幅を動的に調整することで,平滑化された後の電流波形を所望の形(ここでは正弦波)に制御することができるのだ.
最後に電圧形インバータと電流形インバータの違いを簡単にまとめておこう.
電圧形インバータと電流形インバータの違い
もう一度,電圧形と電流形の回路構成の違いをここでおさらいしておきたい.ここに図1を再掲する.
図1再掲.電圧形インバータ(左)と電流形インバータ(右)
まず電圧形(左)は矩形波電圧を出力し,一方電流形(右)は矩形波電流を出力している.ここで注意しなければならないのは,電圧形だからといって電圧源として動作するとは限らないという点である.どういうことかというと,電圧形インバータの出力に電流計を置き,その電流計の値を目標の電流値にするために電圧形インバータの出力電圧を調節する制御機構を入れたら,それはもはや電圧源ではなく,むしろ電流源として機能するのである.同様にして電流形インバータの出力に電圧計をつなぎ,その電圧計の値を目標の電圧値になるようにフィードバック制御をしたならば,その電流形インバータは電圧源として機能することになる.つまり,「電圧形」「電流形」というのは,そのインバータが電流源なのか電圧源なのかを言っているのではなく,純粋にインバータの回路構成の違いを言っているに過ぎないのである.
またダイオードの設置方法については,電圧形インバータでは還流ダイオードが半導体スイッチング素子に並列におかれ,一方電流形インバータでは逆阻止ダイオードが半導体スイッチング素子と直列におかれる.還流ダイオードの設置理由はこちらを参照いただきたい.また電流形インバータの逆阻止ダイオードの設置理由としては,純粋に電流の逆流を阻止するためのものである.
そしてこの2つの回路の使い分けについてだが,あらゆる家電・動力系用途において電圧形インバータが一般的である.電圧形の方が制御しやすいからである.確かに,一定電流よりも一定電圧を用意する方が簡単であるし,通流率(PWMのパルス幅)を変化させればダイレクトに負荷に加わる電圧を調整できることはすぐにわかることと思う.また,電流形のように逆阻止ダイオードを入れないで済む分電圧降下も抑えられるので効率もよく,さらに直流側のリアクトルも不要なのでコンパクトにできる.近年では還流ダイオードが不要な半導体スイッチも一般的になって来ているので,多くの場面において電圧形インバータに分があると言っていい.
ただ,電流形インバータが全く使われないかというとそうでもない.例えば直流送電におけるインバータの場合,直流電流が長旅をしてきて交流に戻されるわけなので,必然的に直流は大きなリアクタンスを通して供給される.この場合直流側を電流源として扱う必要があるので,電流形インバータの構成となる.さらに超大型のインバータであるとサイリスタ型が依然としてよく使われるので,その素子の逆阻止特性が電流形のトポロジーともマッチしている.
電圧形と電流形のスイッチタイミングの違いなど,細かな動作説明は後の記事で触れていくことにしよう.
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