サイクロコンバータの動作
前記事で学んだサイクロコンバータの基本構造を踏まえ,本記事ではサイクロコンバータの動作について考察しよう.今回検討する回路を図1に示す.
図1.単相出力のサイクロコンバータ(6パルスサイクロコンバータ)
前記事で解説した通り,図1で\(I_{out}\left({t}\right)>0\)のときには正群コンバータが働き,\(I_{out}\left({t}\right)<0\)のときには負群コンバータが働く.正群コンバータも負群コンバータも,一部のサイリスタを導通させることで電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)を決めている.具体的には,電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)は式(1a)~式(1f)に示す6つの線間電圧のどれかと等しくなる.どの線間電圧と等しくなるかは導通するサイリスタの組み合わせ次第である.
言い換えると,導通するサイリスタを切り替えていくことで,電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)は6つの線間電圧(式(1a)~式(1f))の間を乗り換えていくことができる.具体的に,一定時間ごとに\(V_{UV}\left({t}\right)\)が\(V_{RS}{\rightarrow}V_{RT}{\rightarrow}V_{ST}{\rightarrow}V_{SR}{\rightarrow}V_{TR}{\rightarrow}V_{TS}{\rightarrow}V_{RS}{\rightarrow}{\cdot}{\cdot}{\cdot}\)と6つの線間電圧の間を周期的に乗り換えていく場合の\(V_{UV}\left({t}\right)\)の例を図2に示そう.
図2.図1の電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)の例
図2の太線で示した波形が\(V_{UV}\left({t}\right)\)である.なお,同図中の縦線はサイリスタを切り替えるタイミングを示している.サイリスタが切り替わるたびに,\(V_{UV}\left({t}\right)\)は異なる線間電圧に乗り換わっていることが読み取れるだろう.この状況をよりわかりやすく示すため,図2をアニメーションにしてみた.図3をご覧いただきたい.
図3.図1の電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)が6つの線間電圧の間を乗り換えていく様子
図3の横軸は時間である.ただし入力交流の周期で規格化しており,1周期を\(1\)としている.一定時間ごとに電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)が6つの線間電圧の間を乗り換えていくことで,\(V_{UV}\left({t}\right)\)は新たな周波数の正弦波に近い波形となる.この新たな周波数はサイリスタ切り替え1回当たりの時間に依存する.実際にサイリスタの切り替え1回当たりの時間を変化させたときの\(V_{UV}\left({t}\right)\)の様子を図4に示す.
図4.サイリスタ切り替えのタイミングと電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)
電気角\(60[\rm{deg}]\)ごとにサイリスタを切り替えると,電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)は直流となる.これはコンバータの動作そのものである.図4のアニメーションでは,サイリスタの切り替え1回当たりの時間を電気角\(60[\rm{deg}]\)から少しずつ遅めている.図1のサイクロコンバータについて,電気角\(\alpha[\rm{deg}]\)ごとにサイリスタを切り替えた場合,電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)の周波数\(f_{out}\)は
と表される.ここで,\(f_{0}\)は入力交流周波数である.この詳しい議論については,【入門演習 パワーエレクトロニクス】3.5の【例題1】(p.254)を参照いただきたい.
ここまでの説明で,電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)の波形がどのようになるのか,明確なイメージが湧いたことと思う.しかし,どの回路ブロックがいつ動作しているのかという考察が残っている.つまり,「正群コンバータと負群コンバータはどの期間に稼働しているのか?」という疑問にはまだ答えていないのだ.これを検討するため,まずは図1の\(V_{UV}\left({t}\right)\),\(I_{out}\left({t}\right)\),\(V_{out}\left({t}\right)\)の一例を図5に示そう.
図5.図1の\(V_{UV}\left({t}\right)\),\(I_{out}\left({t}\right)\),\(V_{out}\left({t}\right)\)の一例
インダクタにより電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)が平滑化され,出力電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)は滑らかな正弦波となっている.また,抵抗負荷を考えているので,出力電流\(I_{out}\left({t}\right)\)と出力電圧\(V_{out}\left({t}\right)\)の位相は同じである.この例において,正群コンバータが動作している期間と負群コンバータが動作している期間はどこからどこまでだろうか?答えは図6の通りである.
図6.図5における正群コンバータ・負群コンバータの動作期間
図6中,灰色で塗りつぶした区間が動作期間を表す.出力電流\(I_{out}\left({t}\right)\)が正のときに正群コンバータが動作し,\(I_{out}\left({t}\right)\)が負のときに負群コンバータが動作する.ここで,電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)の符号ではなく,出力電流\(I_{out}\left({t}\right)\)の符号でどちらが動作するのか決まる点に注目しよう.つまり,一般には正群コンバータが負の電圧を伝える期間もあるし,同様に負群コンバータが正の電圧を伝える期間もあるのだ.これらの期間では電力の流れは逆になる.交流電源に電力が逆戻りするのである.このとき正群コンバータないしは負群コンバータは,コンバータ(順変換器)としてではなくインバータ(逆変換器)として動作していると言える.以上のことを整理しよう.図7をご覧いただきたい.
図7.図5における正群コンバータ・負群コンバータの動作モード
まず図1に示したサイクロコンバータでは,正群コンバータと負群コンバータが同時に動作することはない.したがって図7に示すように,正群コンバータか負群コンバータの一方が動作していれば(”順変換”か”逆変換”のいずれか),他方は動作しない(電流を流さないので”阻止”と呼ぶ).また,動作時に”順変換”と”逆変換”のどちらに分類されるかは,電力潮流の向きによる.電力が電源から負荷に流れていれば”順変換”,負荷から電源に流れていれば”逆変換”していると呼ぶ.電圧\(V_{UV}\left({t}\right)\)の符号と出力電流\(I_{out}\left({t}\right)\)の符号により,合わせて4つの動作モードがあるのだ.
サイクロコンバータの動作についての解説は以上である.次の記事からは,交流から新たな周波数の交流を生み出すもう一つの回路,マトリックスコンバータについて仕組みから動作まで考察していこう.
この項の内容に関する,オリジナル演習問題を絡めた詳細な解説は,
【入門演習 パワーエレクトロニクス】の第3章にて展開されています.是非ご参照を!!
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