いろいろなチョッパ回路
まずは,いままで説明してきたチョッパ回路は,次の図1に示す2つのタイプであった.
図1.降圧チョッパ回路(左)と昇圧チョッパ回路(右)
左側が降圧チョッパ回路(buck Converter)(動作原理はこちら),右側が昇圧チョッパ回路(boost Converter)(動作原理はこちら)である.もちろんチョッパ回路はこの2タイプだけではなく,様々なタイプが存在する.
これからは,そのうち昇降圧チョッパ回路(buck-boost Converter),SEPIC(Single Ended Primary Inductor Converter)の2つについて,補足で紹介していくことにしよう.
昇降圧チョッパ回路(buck-boost Converter)
次の図2は,昇降圧チョッパ回路(buck-boost Converter)の一例を示している.
図2.昇降圧チョッパ回路の動作概念(左)と実際の回路例(右)
昇降圧チョッパ回路というのは,デューティー比(MOSFETの通流率)によって降圧も昇圧も可能なチョッパ回路のことである.例えば図2に示したチョッパ回路について,インダクタと直流電源とが接続されている時間の割合を\(50\%\)よりも大きく取れば\(V_{out}>V_{in}\)となり昇圧動作に,また逆に\(50\%\)未満に取れば\(V_{out}<V_{in}\)となり降圧動作になる.例えば\(80\%\)の時間MOSFETをONさせると,必然的に\(20\%\)の時間だけダイオードを介してインダクタのエネルギーが出力に伝えられるため,\(V_{out}=4V_{in}\)となる.また,\(20\%\)の時間MOSFETをONさせる場合は,必然的に\(80\%\)の時間だけダイオードを介してインダクタのエネルギーが出力に伝えられるため,\(V_{out}=\frac{1}{4}V_{in}\)となる.このようにインダクタにエネルギーを蓄える時間比(つまりはデューティー比)をコントロールすることで,昇圧動作も降圧動作も可能となっている.
ただし,上記図2の出力極性は,入力とは反転していることに注意されたい.もちろん入力と出力の極性が反転しないように,この昇降圧チョッパ回路を構成することも可能で,その場合は次の図3のような形が考えられる.
図3.昇降圧チョッパ回路の回路構成2
インダクタにエネルギーを貯めこんだときの電流方向が,そのまま出力の+端子に接続された形になっている.これもデューティー比が\(50\%\)を境にして,昇圧モードと降圧モードに分かれる昇降圧チョッパ回路となっている.次に紹介するSEPIC回路も,入力と出力の極性が保たれたタイプである.
SEPIC(Single Ended Primary Inductor Converter)
SEPIC回路の回路構成を次の図4に示す.
図4.SEPIC回路の基本構成
インダクタ\(L_{1}\)にエネルギーを貯め,それをキャパシタ\(C_{1}\)を介して出力に伝達する.キャパシタ\(C_{1}\)は当然ながら直流電流を流すことはできないので,実際出力に直流成分の電流を供給するのはインダクタ\(L_{2}\)の役目である.このスイッチングを実際の半導体デバイスで実現した例を図5に示す.
図5.SEPICの回路構成例
ここでもMOSFET(もちろんIGBTなどでも実現可能)とダイオードのペアで実現している.MOSFETがONしているときはダイオードは逆バイアス状態となっており,MOSFETをOFFすると行き場をなくしたインダクタ\(L_{1}\)の電流がキャパシタ\(C_{1}\)を介して出力に押し出される.この回路においてもMOSFETの通流率を\(0.5\),つまりデューティー比\(50\%\)を境にして,昇圧モードと降圧モードのいずれも達成することができる,昇降圧チョッパ回路の一種である.
このSEPIC回路の長所としては,いままで説明してきたようなチョッパ回路と異なり,入力の直流電源が供給するべき電流がほぼ一定なので,入力に対する高調波発生が格段に抑えられているという点が挙げられる.一方で短所としては,見るからに部品点数が多いので,コストは増加してしまうという点がある.小形電子機器内のチョッパ回路など,インダクタやキャパシタのコストがコントローラ部分や半導体素子に対して相対的に軽微な用途では有効な回路方式の一つと言える.
次の記事からは,これらチョッパ回路の電流や電圧の変化,またそれらの制御機構について説明していくことにしよう.
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