インバータのPWM制御
インバータが自由な電圧波形(または電流波形)を出力するために重宝する技術として,PWM制御がある.本記事では,PWM制御の基本的な動作イメージから簡単な回路構成までを説明する.まずPWM制御の動作イメージを1枚の絵で表すと図1のようになる.
図1.PWM制御の動作イメージ(電圧平滑化の場合)
図1は,パルス幅が動的に変化している矩形波電圧\(v_{in}\left({t}\right)\)をインダクタ\(L\)の左側から入力することで,右側の抵抗負荷\(R\)には正弦波に近い電圧\(v_{out}\left({t}\right)\)が与えられる様子を示している.ここでインダクタの電気的性質として,インダクタを流れる電流は急激には変化できないため,図1のインダクタ\(L\)の右端に現れる電圧\(v_{out}\left({t}\right)\)も緩やかにしか変化できず,比較的滑らかな電圧波形となる.実際,電圧\(v_{out}\left({t}\right)\)はインダクタ\(L\)左端の電圧\(v_{in}\left({t}\right)\)を平均化したものとなることが知られている(【入門演習 パワーエレクトロニクス】で詳しく解説している).この性質を思い出せば,抵抗負荷\(R\)にかかる電圧\(v_{out}\left({t}\right)\)を上げるためには矩形波電圧\(v_{in}\left({t}\right)\)のパルス幅を増やせばよく,逆に電圧\(v_{out}\left({t}\right)\)を低下させるためには矩形波電圧\(v_{in}\left({t}\right)\)のパルス幅を減らせばよいことがわかる.要するに,矩形波電圧\(v_{in}\left({t}\right)\)のパルス幅を巧みに増減させることで,抵抗負荷\(R\)にかかる電圧\(v_{out}\left({t}\right)\)を所望の波形(ここでは正弦波)に近づけることができるのである.PWMはPulse Width Modulationの略であり,日本語に訳すとパルス幅変調である.PWM制御とは,「パルス幅を変調させることで所望の出力電圧(電流)を達成する」技術なのである.
それでは,図1での矩形波電圧を実際どのように生成することができるだろうか.一番簡単な方法を図2に示そう.
図2.PWM制御の実現例
スイッチ\(S_{1}\)を切り替えることで,図2の点Xに与えられる電圧を\(E\)か\(0\)のどちらにするか選択できる.つまり,スイッチ\(S_{1}\)のスイッチタイミングを操ることで,高電圧が\(E\)で低電圧が\(0\)である任意の矩形波電圧をインダクタ\(L\)の左端に与えることができるのだ.点Xにおける矩形波電圧\(V_{X}\left({t}\right)\)はインダクタ\(L\)を経ることで平滑化され,正弦波に近い電圧\(v_{out}\left({t}\right)\)となって抵抗負荷\(R\)に加わる.これが,PWM制御の最もシンプルな実現例である.ここで,図2の点線部を電圧形インバータで実現した例を図3に示そう.
図3.PWM制御を適用した電圧形インバータ
図3左側は電圧形単相インバータにPWM制御を適用した場合,同図右側は電圧形三相インバータにPWM制御を適用した場合を示している.どちらのケースでも,点Xにおける電圧はパルス幅が変調された矩形波であり,出力側交流リアクトルを経た後の点Yにおける電圧は滑らかな所望の波形(例えば正弦波)となっているのだ.図3を用いて,PWM制御の回路動作の全容を説明すると,「インバータのスイッチングデバイス(ここではIGBT)のON/OFFタイミングを制御することにより,点Xにおける矩形波電圧のパルス幅を動的に調節する.この矩形波電圧を出力側交流リアクトルにより平滑化することで,点Yにおいて所望の電圧波形を達成する」となる.
ここまでは矩形波電圧を平滑化するアプローチについて解説してきたが,同様に矩形波電流を平滑化する方法もあるので次に紹介しよう.図4をご覧いただきたい.
図4.PWM制御の動作イメージ(電流平滑化の場合)
図4では,矩形波電流\(i_{in}\left({t}\right)\)がコンデンサ\(C\)により平滑化され,抵抗負荷\(R\)には正弦波に近い電流\(i_{in}\left({t}\right)\)が供給されている.電流を平滑化する際にはインダクタではなくコンデンサを用いるのである.図4を実現する回路構成については,「電流形インバータ」で詳しく解説しているので参照いただきたい.
PWM制御の回路動作についてまとめよう.電圧形,電流形問わず,PWM制御における回路動作を要約すると以下のようになる:
1. 電圧形(電流形)インバータのスイッチングデバイスのON/OFFタイミングを制御する.
2. パルス幅の変調された矩形波電圧(矩形波電流)が発生する.
3. 出力平滑用リアクトル(出力平滑用コンデンサ)により矩形波電圧(矩形波電流)を平滑化し,所望の電圧(電流)波形を達成する.
次の記事では上記の1番目,つまりPWM制御におけるスイッチングデバイスのON/OFFタイミングの制御手法について説明しよう.
この項の内容に関する,オリジナル演習問題を絡めた詳細な解説は,
【入門演習 パワーエレクトロニクス】の3.4にて展開されています.是非ご参照を!!
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