ソフトスイッチング(適用例)

 

 本記事では,前回説明したソフトスイッチングの技術が実際の回路中でどのように適用されているのかについて説明していく.題材とする回路は降圧チョッパ回路(図1)である.

 

 

図1.今回題材とする回路(降圧チョッパ回路)

 

 

この降圧チョッパ回路について,ソフトスイッチングの手法を適用したら,回路中の点線部分(スイッチ部分)はどのように変化し,またその動作はどのようになるのか見ていこう.まずZVS(Zero-Voltage-Switching)の適用例を解説し,後半にZCS(Zero-Current-Switching)の適用例を考察していく.簡単のため,これからの適用例においては点線部分よりも右側を定電流源で表す.図1の点線部分がどう変化するのかを純粋に示すためである.

 

 

降圧チョッパ回路のZVS適用例

 

 ZVS(電圧共振スイッチング)を降圧チョッパ回路に適用した例を図2に示す.

 

 

図2.降圧チョッパ回路のZVS適用例(左:半波電圧共振形 右:全波電圧共振形)

 

 

図2には2つのZVS適用例が示されている.左側が半波(Half-Wave)電圧共振形,右側が全波(Full-Wave)電圧共振形である.この半波・全波という意味は,この後\(\Delta{V}_{s}\)などの時間変化のグラフを見ればすぐに理解できるものと思う.また,図2における電流源は,図1のチョッパ回路の点線部分よりも右側(インダクタ\(L\)を含めた右側全体)を表している.つまり,降圧チョッパ回路にZVSを適用したければ,まずダイオードとスイッチング素子(ここではMOSFET)の間にインダクタ\(L_{r}\)を挿入し,かつスイッチング素子と並列に容量\(C_{r}\)をつければよいのである.

 それでは次に,これら2つのZVS適用回路(図2)について,\(\Delta{V}_{s}\)や\(I_{s}\)の時間変化がどのようになるのか見ていこう.図3をご覧いただきたい.

 

 

図3.ZVSの\(\Delta{V}_{s}\)と\(I_{s}\)(左:半波電圧共振形 右:全波電圧共振形)

 

 

図3左側は図2左側(半波電圧共振形)の\(\Delta{V}_{s}\)と\(I_{s}\)を表し,図3右側は図2右側(全波電圧共振形)の\(\Delta{V}_{s}\)と\(I_{s}\)を表している.図3のスイッチ端子間電圧\(\Delta{V}_{s}\)のグラフに着目されたい.左側の半波の場合はスイッチ端子間電圧\(\Delta{V}_{s}\)が正の方面にだけ共振しているのに対して,右側の全波におけるスイッチ端子間電圧\(\Delta{V}_{s}\)は正負両方が許されていることがわかる.そしてこの電圧共振はどちらも,スイッチング素子がターンオフしている期間で起こっており,その期間の最初と最後において\(\Delta{V}_{s}=0\)となるようにターンオフ期間を調節する.このようにして,スイッチング素子がオンする瞬間にスイッチ端子間電圧\(\Delta{V}_{s}\)を\(0\)にし,MOSFETなどのスイッチング素子におけるスイッチングロスを低減できるのである.なお,ZVSの共振周期(\(L_{r}\)や\(C_{r}\),\(I_{L}\)などで定まる周期)とターンオフ期間が互いに等しくなるように調整されることから,この降圧チョッパはターンオフ期間を一定としターンオン期間を可変とする制御になる.

 続いて今度は,降圧チョッパ回路にZCSを適用した例を見ていくことにしよう.

 

降圧チョッパ回路のZCS適用例

 

 ZCS(電圧共振スイッチング)を降圧チョッパ回路に適用した例を図4に示す.

 

 

図4.降圧チョッパ回路のZCS適用例(左:半波電流共振形 右:全波電流共振形)

 

 

図4には2つのZCS適用例が示されており,左側が半波(Half-Wave)電流共振形,右側が全波(Full-Wave)電流共振形である.図2と比べてスイッチング素子がMOSFETからIGBTに変化しているのは,ZCSがIGBTのロス低減に対して有効だからである.また,図2のときと同様に図4の電流源は,図1のチョッパ回路の点線部分よりも右側(インダクタ\(L\)を含めた右側全体)を表している.つまり,降圧チョッパ回路にZVSを適用したければ,まずダイオード\(D_{1}\)とスイッチング素子群(IGBTを含む点線部分)との間にインダクタ\(L_{r}\)を挿入し,かつダイオード\(D_{1}\)と並列に容量\(C_{r}\)をつければよいのである.

 次の図5に示すのは,図4で示した2つのZVS適用回路(図2)における\({V}_{X}\)と\(I_{s}\)の時間変化である.

 

 

図5.ZCSの\({V}_{X}\)と\(I_{s}\)(左:半波電流共振形 右:全波電流共振形)

 

 

図5左側は半波電流共振形(図4左側)での波形を表し,同図右側は全波電流共振形(図4右側)での波形を表している.一番下の\(I_{s}\)のグラフに着目していただきたい.図5左側の半波の場合は電流\(I_{s}\)が正方向のみに振れており,同図右側の全波の場合は\(I_{s}\)が正負両方向に振れている.これらの電流共振はいずれも,スイッチング素子部(図4点線部)がターンオンしている期間で起こっており,その期間の最後において\({I}_{s}=0\)となるようにターンオン周期が調節される.これにより,ターンオフの瞬間において\(I_{s}=0\)とすることができ,IGBTなどのスイッチング素子のスイッチングロスを低減することができるのである.なお,ZCSの共振周期(\(L_{r}\)や\(C_{r}\),\(I_{L}\)などで定まる周期)とターンオフ期間が互いに等しくなるように調整されることから,この降圧チョッパはターンオン期間を一定としターンオフ期間を可変とする制御になる.

 

 ZVSやZCSが,実際にスイッチを有する回路へどのように適用されるのか,イメージが湧いただろうか.いずれもスイッチング素子の周辺で,ZVSの場合はスイッチがターンオフしている期間(ZCSの場合はスイッチがターンオンしている期間)においてLC共振を起こし,ZVSの場合はターンオンの瞬間の電圧を\(0\)にする(ZCSの場合はターンオフの瞬間の電流を\(0\)にする)ことを達成し,デバイスのスイッチングロスを低減させる技術であることがわかった.

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